市民に開かれた労働運動関係資料のナショナルセンター

法政大学大原社会問題研究所 若杉隆志



 法政大学大原社会問題研究所は法政大学多摩キャンパスの図書館・研究所棟5階にある。社会科学の分野ではわが国最古の歴史を有する研究所として国内外のこの分野の研究者に広く知られている。一私立大学の付置研究所ではあるが、その文献、史資料、研究資源は広く市民に公開されている。
 創立者はその名の示すとおり「大原」孫三郎。大正8年に当時倉敷紡績株式会社の社長であった孫三郎が私財を投じて設立・運営にあたった。その後金融恐慌などで大原家からの資金援助が難しくなり、当時の所長の高野岩三郎らの努力で大阪から東京に移転し、自立経営の方針を固めるが、戦時体制下で研究所活動も困難になる。戦後1949年に法政大学と合併し再スタート、そして1986年に現在の多摩キャンパスに移転することで新たなスペースを得て研究活動と資料整理が軌道に乗る。
 研究所の代表的は刊行物は『日本労働年鑑』と「大原社会問題研究所雑誌」(月刊)である。いずれも創立直後に創刊され、現在に至っている。研究所が所蔵するさまざまな労働運動、社会運動の資料はこの本の刊行のために収集された。とりわけ戦前期の文書・記録、機関誌、ポスター、写真などはほかに無い貴重なコレクションとなっている。また戦後の労働運動あるいは社会運動家の個人資料も積極的に受け入れている。今では量的には圧倒的に戦後のものが多い。
 研究所ではこうして収集した資料を広く利用公開している。所蔵情報、資料の公開にあたってはインターネットを積極的に活用し、今では研究所に来館してカードを検索するより自宅でネットで検索する方が早いくらいにコンテンツを増やしている。
 もともと利用資格を問わない専門図書館・アーカイブであったがインターネットによる情報発信はより多様なニーズを生んでいる。地域で女性労働を研究しているグループによる文献調査、他大学の学生らによるゼミレポートのための調査、資料展示会への出品協力、刊行物への資料掲載、あるいは会社の労働組合の方針書を調べに見える労務担当らしき方、などなど、カウンターでは原則的に利用目的を問うことはしない。資料の収集は購入、寄贈に関わらず公開を前提としている。対立する労働組合の役員さんが研究所でばったり鉢合わせということもかつてあったようである。
 労働運動の停滞が言われて久しい。しかし同時に労働問題はむしろ広範、深刻、多様の度を増している。そうした問題を考え、見つめ直す場のひとつとして市民の「ひろば」となりたいと思っている。


『市民活動のひろば』23号(2004.9)

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