私の月誌(2004年4月)

リサーチあたふた その1 「解放の歌」のこと

 某日、鳥取で演劇活動をしているという高校の先生、M氏より大原の機関アドレスあてにこんな問い合わせメールが届きました。
 生田長江の戯曲『長澤兼子』を舞台上演する企画に関わっている。その作品の中で「解放の歌」というのが何度か出てくる。「普選運動」を実現しようとする人々がこの歌を歌いながらデモ行進するシーンがあり、資本家の娘、兼子もそれを聞き、「私たちも歌ってやりましょうか」というせりふがある。この「解放の歌」がよくわからない。当時本当にあった歌か、生田長江の創作なのか。すこし調べてみたところそのころ「デモクラシー節」というのがあったらしい。これがそれなのかどうか。この「解放の歌」について教えてほしい。できれば歌詞も知りたい。
 といった内容です。どうやら劇の中でその歌を実際に俳優に歌わせたい、あるいはバックで流したいということのようです。「解放の歌」が労働歌あるいは革命歌ではないかとういうことで大原に問い合わせてこられたものです。
 ん--、遠く鳥取から大原をあてにしてメールしてきたからには、ぜひ協力してあげたい、当人は法政大学のOBということですがそういうこととは関わりなしに。でもいろんな場でがんばっている法政の同窓を応援してあげたい、というのも心情です。
 というわけでリサーチ開始。
 なにはともあれ生田長江のその戯曲『長澤兼子』にあたってみようとしましたが大原には所蔵無し、同じ建物に同居している法政大学多摩図書館にも無し、市ヶ谷図書館にはあり、取り寄せができるけれど、とりあえず、手間なのでおいといて。
 次に大原で所蔵しているうたごえ歌集、革命歌、労働歌についての本、CDにあたってみました。しかし、ずばり「解放の歌」では出てきません。ならば大正デモクラシーのころの普通選挙運動についての歌ということで調べてみると2つの歌がありました。
 ひとつは「普選の歌」。歌いだしは「労働神聖と口では賞めて・・」。デカンショ節の替え歌で作詞者は不明。デモクラシー節はこの歌のようです。
 二つ目は「普通選挙の歌」。「聞かずや君よ民衆の・・」で歌いだす「敵は幾万ありとても」の譜です。作詞者はあの賀川豊彦と推定されるということです。
 また「解放の歌」の題名に近いのは「水平歌(解放歌)」。「ああ解放の旗高く・・」で歌いだす「ああ玉杯」の替え歌です。しかしこの歌は水平運動(部落解放運動)の歌なのでおそらく違う。
 文献、CDでの調査の後、ネットで「解放の歌」「普通選挙」などをキーワードで検索してみましたが、解答のヒントになるような情報は得られませんでした。さらに、oisr-mlで大原の研究員にもhelpしてみましたが有意な情報は得られませんでした。
 そんなこんなで以上のような調査内容を、おそらく「普選の歌」がそれにあたるのではないか、生田長江はそれを「解放の歌」として戯曲中に盛り込んだのでないか、といったことをメールで回答しました。
 後日お礼メールが届きました。結局実際の劇の中でどのように扱ったは記されていませんでしたが、創作の世界ですので生田長江の戯曲をMさんなりに今日的に解釈されて劇中に活かしていただけたのではないかと想像しています。
 今回参考にしたのは糸屋寿雄『労働歌・革命歌物語』、西尾治郎平『日本の革命歌』ほかです。
 今回の調査で発見したことその1。戦前の労働歌、革命歌のほとんどが有名な歌の替え歌であったこと。労働者・庶民の中に社会運動を広げていく上で、当時誰でもが知っている歌の譜を利用してたようです。
 それとネットの検索でわかったのですが、なんとこの「デモクラシー節」を今でもコンサートで歌い、CDで売っているグループがあることでした。このCD、大原で資料として購入しようかどうか今考え中です。


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