日本社会主義同盟「名簿」 1920年

 最近この名簿が再び研究者の間で注目されています。研究所で所蔵している堺利彦旧蔵の名簿とは別に山辺健太郎旧蔵の名簿が発見されたからです。
 大原社研所蔵の名簿は向坂逸郎文庫の中の堺旧蔵資料のものです。ノートで9冊あります。研究者の閲覧利用はもとより、過去に展示会への出品も何度かあり、資料的価値の高い史料といえましょう。
 発見のことを記す前に日本社会主義同盟について簡単にふれておきます。
 1921年8月に、山川均、堺利彦、大杉栄らによって結成された同盟は、12月に結成大会を行います。その後全国各地で宣伝活動を展開し、1千人を超える加盟者を得ます。
 明治後半期の社会運動の大きな流れをみると、1888年社会主義研究会結成、1901年社会民主党結成、1906年日本社会党結成と、社会運動がようやくひろがりつつあったとき、1908年の赤旗事件、そして1910年の大逆事件の大弾圧を契機に一挙に冬の時代にはいります。
 その10年後、社会主義者たちは大同団結し、日本社会主義同盟を結成、ふたたび歴史の舞台に躍り出たのです。1914年のロシア革命の影響もあったことでしょう。1917年には日本国中を揺り動かした米騒動がおきています。そうした騒然とした時代状況の中のことでした。
 社会主義同盟には、社会主義者だけでなく、無政府主義者、労働組合、学生思想団体などから幅広く集い、いわば、統一戦線の性格を有している点で画期であったということです。しかしそれゆえか、発足後内部対立も表面化していきます。同盟は結成翌年5月の第2回大会の後結社禁止命令を受けます。短命でしたが、明治から大正、昭和へと続く社会運動のうねりをつくり、やがて解散後参加した社会主義者たちの各潮流は各々の場で運動の再結集をはかっていくこととなります。
 さて、「発見」の話に戻ります。それは私が大学図書館問題研究会で懇意にしている和光大学図書館のSさんからの電話からでした。
 内容は、大原に「社会主義同盟」の名簿の有無、閲覧対応などについてでした。私は、大原では貴重資料扱いとして貴重書庫に保管していること、利用頻度が比較的高いので閲覧用にはコピーを1セット作成し、利用に供していることを話しました。話をしているうちにわかったことは、和光大学図書館で山辺健太郎旧蔵資料の中に日本社会主義同盟の名簿があり、その扱いを検討しているとのことでした。私はこれを聞いてほんとにびっくりしました。これまでのユーザーとの対応で山辺旧蔵名簿のことは知っていました。そしてそれが長年所在不明であることも。山辺名簿はその内容について文献で紹介されたことはありますが、その内容の詳細は未解明であったため、研究者の間でもその所在は一大関心事であったようです。今年(2008年)2月に発行された「初期社会主義研究」20号は「社会主義同盟」の特集号で、社会主義同盟について研究者がさまざまな論考を寄せています。大原所蔵の名簿についても詳細にその内容が紹介されています。この特集号でも当然山辺名簿についても言及がされていた矢先のこの発見です。しかも、意外や、大原社研と同じ町田市の、それも、旧知の図書館員がいる和光大学図書館に所蔵・保管されていたのです。
 2種類の名簿を実際に調査された在野の研究者Hさんによると堺名簿と山辺名簿では加盟人数にずれがあるということです。作成時点が違うのでしょうか。記入者は誰なのか、いろいろ興味がわきます。明治大正期の社会運動家を総結集した社会主義同盟。今回発見された和光大所蔵の名簿、そして大原所蔵の名簿から今後また新たな研究成果が生み出されていくことでしょう。
 官憲の弾圧、戦火、散逸の危機などのいくたの困難を経て今日までたどりついてきたこの名簿。守り抜いてきた人たちの想いがぎっしりとつまっています。(2009.8記)
<参考文献> 『初期社会主義研究』20号「特集日本社会主義同盟」2008.2


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