高野岩三郎 「日本共和国憲法私案要綱」 1945年

 この資料は研究所所蔵資料の中で、展示会やマスコミに提供する回数では確実にベスト5に入ります。とりわけ今年は憲法施行60周年にあたることから当たり年でもあるのでしょう。NHKの憲法関連番組、映画「日本の青空」などに取材協力し、憲政記念館の展示会にも提供しました。それだけの資料的価値を有するゆえんでしょう。お宝ですので昨年度脱酸中和処理しました。これで100年先まで大丈夫です。
 この私案は、高野岩三郎(1871-1949)が主唱し、鈴木安蔵(1904-1983)が主宰した憲法研究会に提案されたものであり、しばらく鈴木の元に保管されていた後、鈴木から研究所に寄贈されたものです。
 内容は、天皇制を廃止し大統領による共和制の提唱、男女平等、などを提案しています。憲法制定過程にこの高野私案がどの程度の影響を与えているのでしょうか。天皇制廃止についての提案は憲法研究会の中でも「過激」としてしりぞけられていますが、高野の自由主義的な考え方はトータルとして憲法研究会の草案のバックボーンとなったことは確実でしょう。
 今回のNHKの取材を通して、また、放映された番組を見ると、憲法研究会の草案がGHQの憲法作成過程に現実に大きな影響を与えた事実が、当時のGHQ関係者の証言や国会図書館であらたに公開された資料などにより明らかにされました。また、国会での審議でGHQ案に追加修正がされたことも明らかにされました。中でも戦後国会議員となった森戸辰男が生存権を主張し案文に盛り込んだことも大きく報道されました。いうまでもなく森戸は戦前からの研究所の研究員で高野とともに憲法研究会のメンバーでした。
 これまで改憲を主張する側は、アメリカからの一方的な押し付けであることを改正の論拠のひとつとしてきましたが、それは事実ではなかったのです。そういえばここのところ「押し付け論」はいわれなくなってきています。変わりに、もろに「アメリカの戦争に加担協力する」といった露骨な言い方が繰り広げられています。
 今年亡くなった城山三郎の口癖は、「戦争で得たものは憲法だけだ」だったとのことです。重い言葉ですね。(2007年5月記)


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